コンコン・・・
アメは病室のドアをノックする音にふと目が覚めた。
「いいでしょうか?」
外から遠慮がちな声がする。
「いいよー。」
周りを見渡すと、マイもルーンもいない。
いつの間にか帰ったのかな?
窓からは消えかけようとしている西日が景色をオレンジ色に染めていた。
がちゃ・・
ヒューム族なら誰でも持っている装備、
いわゆる初期装備と呼ばれているのだが、
青と白の布を基調として皮の装飾が施されている服を着た、
スキンヘッドの男が入ってきた。
薄暗くなり始めた部屋では、シルエットだけはよく分かるが顔がはっきり見えない。
誰だ、このハゲは・・・
と思った時、その
ハゲいや、スキンヘッドの男が声を掛けながら近づいてきた。
「アメさん、大丈夫ですか?」
「お・・・お前・・・・・・・シン?」
ベッドの脇まで近づいてきたそいつの顔を見て、半信半疑でアメが言う。
「そうです。
あ、あの時はキャップをかぶっていましたから、もしかして覚えてもらってないようですね。」
そう言ってシンは穏やかに微笑んだ。
「す、すまねぇ。野良じゃそんなに顔覚えたりしないんだわ。
ジョブとか見た目とかだけで・・・
大体それっきりってのも多いからさ。」
あたふたと言いながら
うち、何を言い訳してるんだ?
と、アメは思った。
「いえ、いいんですよ。ここ、座りますね。」
「あ、ど、ど、どうぞ。」
くぁぁぁ、うち何どもってるんだ?
シンはベッドの脇にあった椅子に腰掛けると、じっとアメを見つめた。
「アメさん、今回の任務ではあなた一人を大変危ない目に合わせてしまいました。
本当に申し訳ありませんでした。」
「何を、いいってことよ。
あんときゃ、あれが一番正しい判断だって。」
「そう思います。チョコボの救出が最優先でした。でも・・・」
シンは視線を落とした。
「パーティ構成員全員の安全をきちんと確保しないではリーダーとしては失格です。」
「シン、何一人で責任感じてるんだよ。
あれは、うちの力が足りなかっただけ。
マジ気にすんな。」
「ありがとうございます、アメさん。」
ちょっとした沈黙が部屋の中に流れた。
いつの間にか日は落ち、部屋は薄ぼんやりとした暗がりに包まれ始めていた。
「灯りをつけますね。」
そういってシンは立ち上がった。
夕陽とはまた違ったやさしい橙色の灯りがともる。
その背中に向かってアメは声を掛けた。
「うちはむしろ、シンに会ったらお礼を言いたかったんだ。」
「え?」
驚いたようにシンが振り返った。
「その・・・・
ここに運んでくれたのってシンだろ?
・・・・・
・・・・・
・・・・・
ありがとな。」
思いがけず頬が赤くなるのを感じて、アメは慌てて窓の方を見た。
いけねぇ、なんだこれは・・・!
やっぱり、気を失っている間中ずっと抱きかかえられていたというのは
恥ずかしいぞ?
シンはにっこりと微笑んだ。
「いえ、当然のことをしたまでです。
・・・・・
アメさん、ちょっと魔法を唱えさせてください。」
「?」
また椅子に腰掛けると、シンはアメにリジェネを唱えた。
「本来、戦闘中に体力を少しずつ回復させる魔法なのですが
自己回復力を高める魔法です。
あなたの怪我が早く治る力になれば、と思いまして。」
「本当になるのか?」
「いや、分かりませんが。」
「なんだ、そりゃ。」
二人はおかしそうに笑いあった。
ちょうどその時
「アメー、起きてるかぁ?」
マイとルーンが食べ物を抱えて部屋に入ってきた。
「お・・・シンさん。」
「こんばんは。アメさんをお見舞いに来てました。
看病ご苦労様です。」
シンはぺこりと頭を下げた。
ルーンが言った。
「いえいえ、別に苦労はしてませんよ。アメさんも思ったより元気ですし。」
「そうですか、よかった。それでは私は失礼させて頂きます。
アメさん・・・」
「ん?」
「またお見舞いにきてもよろしいでしょうか?」
「いいぜ。ただ、ここにいつまでもいる気はないけどな。」
アメは、にかっと笑いながら答えた。
「はい。」
シンもにっこりと笑い、それでは、と部屋を出て行った。
ルーンが冷やかした。
「おやおや、アメさん、いい雰囲気ですね?」
「そんなことない!」
「そんなことないんじゃ?」
ぶっきらぼうに言ったマイの言葉がシンクロする。
「ぷ、お前が言うかよ?」
アメは可笑しそうに笑った。
「ま、いいや。腹減ったわ、何もって来た?」