数日が経った。
シンは毎日やってきては、けがの様子を聞いてリジェネなど唱えていく。
LSの連中もおいしいものを携えてお見舞いに来てくれる。
でも、アメは早くここから出たかった。
腕がにぶっちまうぜ・・・
ベッドからそっと降りると、近くのテーブルにおいてあった果物ナイフを
短剣のかわりに構えて、振るってみる。
微かな痛みはあるものの、動くのに支障はない。
「うち、もう大丈夫じゃん。」
仮想の敵向かって短剣を大きく前に突き出したその時
がちゃっと病室のドアがあいて誰かが入ってきた。
やべ!あたっちまう!
とっさのことで止められない。
それでも無理に踏ん張ってこらえようとして、脇腹に痛みが走る。
「くぁっ・・・!っつつつつ」
顔をしかめながらも、ドアから入ってきた人影を確認しようとしたけど
そこには誰もいない。
「む?なんでドアが開いたんだ?」
脇腹をさすりながら、アメはきょとんとしていた。
「ここですのよ。」
声の先を確かめるように視線を落とすと、そこにはフワがいた。
「なんだ、フワかぁ。ノックぐらいしろよー。
もう少し背が高かったら、頭串刺ししちゃったぜー。」
「しちゃったぜー、じゃないですの。
誰も病人が刃物振り回してるなんて思わないですのっ。
ほらほら、そんな痛そうにしてて、とっとと横になるですの。」
「へぃへぃ。」
フワには敵わない。
アメは大人しく果物ナイフを置くと、ベッドに戻った。
「フワ、だってうちもう退屈なんだなよなぁ。」
「だからって暴れていいってもんじゃないですの。」
「今日は何か持ってきてくれたん?」
「いいえ、面白い話を聞いたから、見にきましたの^^」
「面白いこと?何かあったかぁ?」
「ルーンやマイから聞いてますの。
アメのとこに毎日通ってくる殿方がいるって。」
「んぁ?」
「真面目そうなスキンヘッドの方って聞いてますの。」
「あ、な・・・そいつ、シン?それ、そんなんじゃ、だって、ぅぉぃ!」
「アメさん、何言ってるか分からないですの^^
毎日、午後のティータイム時にいらっしゃるって聞いたから、
ここはフワがじっくり観察するしかないと思って♪」
「あいつらがなんて言ってるか分からないけど、シンはそんなんじゃないから。
シンはうちのけがに責任感じて、真面目な奴だから、だから、な?」
「それは分からないですの。
アメがそう思っていても、アメがにぶいだけかもしれませんの。
もしかしたらチャンスですのよ?フワがじっくり鑑定しますの。」
フワはそう言いながらにっこり笑った。
本当はそれもあるけれど、そのシンさんの話をした時の
マイの様子がとっても不機嫌でしたの。
あらあら、これは?
本当に面白いことになりそうですの。
そう思い出して、フワはまたにっこりと微笑んだ。
「フワ、なんかその笑顔怖い・・・」
アメの背中にぞくっとしたものが走った。
その時、こんこんと部屋のドアをノックする音がした。
フワの瞳がきらりと光る。
「フワ、変なこと言うんじゃないぞ?」
「分かってますわよ^^」
「はーい、どうぞ。」
がちゃりとドアが開く音がして、その見舞い客はアメに駆け寄ってきた。
「アメーーーー、大丈夫かぁぁぁ?」
その頭にはふさふさとした黒髪が、
それはシンではなかった。
「を、ナツキ!」
「ひどいぜー。入院したなら何でもっと早く俺に知らせないんだ?」
「自分で知らせられるかよっ。」
「俺、最近LS付けないで修行の旅をしてたからな。
もっと早く知ってれば・・・」
シンの登場を期待していたフワががっかりとして冷たく言い放った。
「早く知ってたら、ろくなことしないですの。」
「フワちゃん、ひどいなー。
身動きできないうちに、アメに何かしようなんて思ってたりなんか・・・」
「してたのかっ!」
「してましたわね・・」
アメとフワのダブルつっこみが入る。
「でも、まぁ元気そうでよかった。
これ、花でも買ってきたぞ。」
そう言って、背中に隠しもっていた花束を差し出す。
マーガレットの花束だった。
「香りのきつくない花を選ぶあたり、まぁ合格ですの。
花瓶借りて活けてきますの。」
花束を受け取ると、フワは部屋から出て行った。
「アメ、マジで具合はどうだ?」
「ぉぅ、もう元気さ。早く退院したいぜ。」
さっき無理をして痛んだことは伏せといて、
アメは両手で拳を作りしゅっしゅっと空をきってみせた。
「そりゃぁよかった。
いや、ちょっと残念だな。しおらしいアメも見てみたかった♪」
そう言ってお決まりのように抱きついて来るナツキ。
「こらっ、貴様、避けるとこないっ!」
「ふっふっふっふ♪」
その時ドアが開く気配がした。
「フワ?このばか、ひっぺがs・・」
ナツキの顎を手で押しながら声を掛けると、
「あ、すみません。お邪魔だったようです。
いや、また来ますから・・」
と声がした。
「む?」
男の声にナツキが振り向く。
そこにいたのはフワじゃなくてシンだった。