人の恨みをモンスターの攻撃として受けながら
6人はその場に崩れ落ちた。
倒れてもなお襲いかかりそうな荒れ狂ったモンスターの群れに
アメは咆哮した。
「こっちだぁぁぁーーー!!!」
右手で作った拳を水平に振り小さいつむじ風を作ると
さらに左手で拳を打ち上げ、その風を大きなつむじ風として巻きあげた。
格闘技、スピンアタック。
その突風にモンスター達は一斉にアメを見た。
「え?」
その瞬間、アメの体はふわりと宙に浮いた。
「アメさん、失礼!」
シンがアメを後ろからすばやく抱き上げると、さっと後方に飛んだ。
「アメさん、落ち着いてください。あそこで戦ったら
とかげやカニの範囲攻撃を倒れた人達も浴びてしまいます。」
早口でそう話すと、シンはアメを降ろした。
「す・・・すまねぇ!」
追いついたルーンとフワがスリプガIIとスリプガを殺到しかけたモンスターの集団に放つ。
アメミット以外のモンスターはその場で動かなくなった。
「ダンくん、お願いですの!」
「おぅ!」
フワの言葉ににうなずくと
ダンデはモンスターの集団をかいくぐり、倒れている6人を次々に軽々と両手に抱えていく。
そして、モンスターから離れた場所の一段高くなった岩壁の近くに運び、
どさどさと落とした。
「ノーーーーッ!!!ダンくん!あなたが止めをさしてしまうですの!」
アメミットはアメに向かって、そのごつごつと堅い頭を低くして突進して来た。
その素早い突進を避け切れず、その頭突きを腹に受けアメは後ろに吹き飛ばされる。
「んっ・・・つっ!」
治ったばかりのあばらに痛みが走る。
すかさずマイ、ナツキが挑発を入れ、
シン、シエラ、シノブが二刀流で切りつける。
アメミットの注意がそれる。
ダンデも駆けつけ、攻撃に参加する。
アメミット狩りパーティの攻撃を受けていたために、アメミットの勢いが早くから鈍った。
「バファイラ!」
火属性の攻撃への耐性を付ける魔法をルーンとフワが唱えた直後
もがくようにアメミットはファイヤーボールを吐き出した。
ヴェールのような耐性魔法の壁を貫き、ちりっとした感覚が肌を焼く。
アメミットは苦しそうに紫色の息を吐き出す。
「ちっ・・・!」
その息には毒気が含まれていた。
あがくように、もがくようにしっぽを振り回し、頭を低くして突進するアメミット。
しかし、これだけの攻撃を受け最後の時が近づく。
その大きな口から最後のファイヤーボールを吐き出すと、
正面にいたマイをかっと睨み付け、鈍い地響き音をたてて地に転がった。
最後に邪視を人間に浴びせ逝ったアメミット。
マイは石のように動けなくなっていた。
「石化ぐらい気力で避けるですの!」
フワがそう言いながら、石化を解く魔法、ストナを唱える。
「そろそろ起きますよ!」
ルーンがその詠唱を待たずに、周囲に注意を呼びかける。
再度のスリプガ詠唱が注意喚起の言葉で幾分遅れる。
その間に放たれたとかげのファイヤーボールとカニのバブルシャワーを
防御した時。
ヒィァァァァァァ・・・ッ!
皺だらけの頭部に手と尾のようなものが付いただけのモンスター、
Haunt(ホーント)と呼ばれるゴーストが金属のような恐ろしい声を発した。
「しまった・・・」
ゴーストのこの叫び声は人の体力を奪う。人は脱力感に襲われ、体が重くなる。
再びとかげとカニを眠らせることに成功したものの、
やっかいな相手が混じっていたことを思い出す。
「なんて忙しいですのー!」
「ふんばりましょう!」
フワとルーンが素早くカーズナを唱え、呪いの状態を解いていく。
シン、シエラ、シノブがいち早くホーントを囲み、攻撃を始める。
「まだ体力が!」
ルーンが叫ぶ。
しかし、近くの人間を払うように打ち出すホーントの手は、三人には当たらなかった。
ホーントの攻撃する先からは小さな紙の人形がひらひらと舞い落ちた。
「空蝉の術でござる!ヘイストを頂ければ!」
「分かりました、こらえてください!」
フワとルーンが三人にヘイストをかける。
ヘイストは行動力をアップさせる魔法であり、忍術の再詠唱が素早くできるようになる。
ひらひらとホーントの手が動き、静かに宙をくるくると回る。
グレープリールだ。
同時に皆は体力がすぅっと奪われるのを感じた。
小さなタルタル族であるフワとルーンには、呪いに続くこの攻撃はきつかった。
勝気なフワの顔がゆがむ。
「やりますわね!」
青白い顔になりながらも、フワは両手を組み目を閉じた。
その両手を左右に大きく開いて印を結ぶと、全体回復の魔法を唱え始めた。
それを見てアメはちらっとマイを見た。
OKというように片目をつむってみせて、マイはすかさずホーントを挑発する。
ホーントがマイのほうに向く。
身を低くして、マイの反対側にいるナツキの背後に滑りこんだアメは、
一瞬気を溜めて、その気と共に攻撃を繰り出した!
その攻撃は、ホーントにはマイが繰り出したように思われた。
だまし討ちというシーフの技である。
忍ぶように敵に気付かれずにその攻撃を繰り出したことにより不意打ちの効果が乗り、
敵の注意はマイに固定された。
「すまん!乗り切ってくれ・・・」
祈るようにアメがつぶやいた。
フワの全体回復魔法が発動し、皆の体の重さがすっと軽くなった。
アメが不安げにじっとホーントを見る。
ホーントはマイに向いたままだった。
「マイ、ちょっとの間よろしくですの。もう魔力がかりかりくぽですの。」
ちょこちょこと距離をとったフワはすとんとその場に座りこみ
両手を胸の前で組んで目を閉じた。