そりゃぁ、今までゴブリンとは何度も戦った。
死に至らしめたやつもいる。
だけど・・・
「何故うちをかたき呼ばわりする?」
「赤い髪のミスラ。お前、母さん、殺した!」
「ちょっ、ちょっと待て!
それ、うちかもしれない。でも違うかもしれないぞ?」
「お前、赤い髪のミスラ!言い訳するな!」
アメはとりあえずぽんぽんとチョコボの首を叩くと、
ここで待っててな、とその背から降りた。
とんっと地上にアメが降り立つと、小さなゴブリンはちょっとだけあとずさった。
アメもそう大きい方ではないが、小さなゴブリンはそんなアメの膝丈ぐらいしかなかった。
訳もなく襲ってくる相手にはこちらもすぐに剣で応えることにしている。
しかし、今回は何だか調子が狂う。
「おい、ゴブリン!
戦ってもいいが、お前と戦う理由が・・・
うちにはないぞ?」
「お前、かたき!」
問答無用で小さなゴブリンは剣で切りかかってきた!
まだ覚えたての剣なのだろうか、
剣筋が手に取るように分かる。
「だからっ!」
アメはひょいとその剣をかわす。
勢いで小さなゴブリンは頭から地面に突っ込んだ。
「だから・・・ぉぃ、大丈夫か?」
「うるさい!お前、かたき!」
埃にまみれたマスクの奥からくやしそうな声を出す。
起き上がって、また剣を振りかざしアメに切りかかる。
アメは半身でそれをかわすと、小さなゴブリンはまた地面に突っ込んでいった。
「おい、ゴブリン・・・
命を狙うなら、もうちょっと修行しないと返り討ちに遭うぞ?」
「うるさい!うるさい!かたき!お前、かたき!」
小さなゴブリンの声は震えていた。
時々ぐしっぐしっと、はなをすする音もする。
「お前・・・泣いてるのか?」
「うるさい!うるさい!」
小さなゴブリンは今度は遮二無二剣を振り回して突進して来た。
革のマスクは埃と涙でぐちゃぐちゃになっている。
アメにはそんな小さなゴブリンを相手にすることはできない。
「まず落ち着け!ゴブリン!」
アメは軽く跳躍して、その頭上を飛び越え、かわす。
「たたかえ、にげるな!」
「逃げるなって言っても・・・!」
アメは剣をかわしながら、小さなゴブリンが疲れてしまうのを待った。
「助太刀するにゃー!」
アメの背後から声がした。
アメと同じ髪の色をしたミスラが短剣を構えて、すばやく駆けつけてきた。
背中にビークの肉を下げている。
近くで肉狩りをしていたらしい。
「いや、これは!」
アメがゴブリンに絡まれ、苦戦しているように見えたに違いない。
小さなゴブリンに短剣が振り下ろされる!
その殺気に小さなゴブリンは剣を構えたまま尻もちをついた。
「違う!だめだぁぁぁ!」
間一髪、アメはミスラと小さなゴブリンの間に飛び込み、
振り下ろされた短剣を腕で跳ね上げた。
「つっ・・・」
小さく声を上げ、アメの顔がゆがんだ。
短剣を防いだ手をかくすようにして、アメは無理に笑顔を作った。
「わりぃわりぃ、こいつは敵の獣人じゃないんだ。
ちょっと剣の稽古をつけてただけだったんだけど、
驚かせちまったね。」
「そ、そうだったのかにゃー。
こんな道の真ん中じゃなく、もっと目立たないとこに行ったほうがいいにゃー。」
「だ、だよな。気をつけるわー。」
そういって、反対側の手で頭をかいて、へへっと笑ってみせた。
小さく手をひらひらとさせて、そのミスラは再び狩りに戻って行った。
アメの後ろにいた小さなゴブリンは目を疑っていた。
かたきのミスラが二人いる。
しかも、自分がかたきと思っていたミスラは自分を助けてくれた。
そして、目の前にある隠された手からは、赤い血がぽたぽたと滴っていた。
「お前・・・・・・かたき違う?
かたき・・・・・・・
赤い髪のミスラ、お前、違う?」
その声にアメは振り向いた。
「おぅよ。うちと同じ髪のミスラなんて、世の中にごまんといるんだぜ?」
「赤い髪のミスラ・・・・・いっぱい・・・・・
かたき、誰?
かたき、どこ?
お前、違うのか?
・・・・・・
母さんのかたき・・・
うっ・・・
うっ・・う、うえーーーーーん!!」
小さなゴブリンは剣をぽろりと地面に落とすと、
マスクをしたままの顔を両手で覆い、おいおいと泣き出した。
アメは慌てて、小さなゴブリンを覗きこんだ。
「お、うぉーい、こら、男の子だろ?泣いてるんじゃねぇよ・・・」
「ほっとけ!赤い髪のミスラ、お前かたき違うならあっちいけ!」
小さなゴブリンは座ったままぐるんと背を向けた。
「ほっとけったって、お前みたいな弱っちいゴブリンがこんなとこにいると
腕試ししたい人間にすぐにやられちゃうぞ?」
後ろ向きのままえっくえっくとしゃくりあげながら、
小さなゴブリンはいやいやをするように首を横にふった。
もー、なんだかなー・・・
ほっとけねーっしょ?
とんだものに出くわしてしまった。
これは今日もお宝探しは中止な予感がする。
「とりあえず、そこのゴブリン、仇の話聞かせてもらうぞ!」
アメは脇に落ちていた剣をすばやく拾い、自分のベルトに差し込み、
小さなゴブリンの両脇を抱えてひょいと持ち上げた。
「ミスラ!何をする!やめろ!」
小さなゴブリンは体をよじって逃れようとした。
「もー、落ち着けって!危なくないとこまで行くだけだ!」
アメは暴れる小さなゴブリンを片手で抱えると、
傍らで待っていたチョコボにひょいとまたがった。
そして、小さなゴブリンの体を持ち直し、自分の前にちょんと座らせた。
「チョコボ!ごめん、ジュノに戻ってくれ!」
そう言ってアメは手綱をひき、チョコボをジュノに向かせた。
分かったよ、というように、クェェェッとなくと、チョコボはジュノ目指して駆け出した。
チョコボを走らせながら、アメは言った。
「まじ、このままじゃ落ち着かん。話してくれよな?」
チョコボとアメの体に挟まれ、最初は身をかたくしていた小さなゴブリンだが
その暖かさに緊張が緩んだらしい。
「人間なんか、かたき、オレ、信用しない・・・」
「どうでもいいさ。」
「お前も、オレ、信用しな・・・」
小さなゴブリンは言いかけたまま黙ってしまった。
ん?
アメがいぶかしく思った瞬間、
小さなゴブリンの体がずるずるとすべるように落ちかける。
「わわわ!」
アメは急いでその体を両腕で挟んだ。
「どうした?ゴブリ・・・ん?」
小さなゴブリンから、すーすーと小さな寝息が聞こえてきた。
極度の緊張から解かれて、暖かさと心地よい揺れに睡魔に襲われたらしい。
「お前、こら!寝てんじゃねーーーー!!!!」
アメの叫びがソロムグにこだました・・・。