「諜報活動は私達の得意とする所です。
アメさん、
これから私はウィンダスに飛びます。
まずはギルドで依頼者と依頼品、状況など探ってきます。」
「ぉぅ、うちはゴブリンの店行くわ。
タローをどうすればいいか聞いてみる。」
「本当は皆で手分けすると早く状況は判明するのですが・・・」
そこまで言いかけて、シンはアメの返事を待った。
「困ったら相談するさ。
なるべく巻き込みたくないかな、今は。」
「分かりました。
でも、約束してください。
危険な事件だったら、深入りする前に皆の助けを仰ぎましょう。」
「分かった。」
「それと、もしタローに関して動く時は
通信機は私へのtellで固定しておいてください。
何かあったらすぐに駆けつけます。」
「ん。分かった。」
そんな二人のやりとりをタローはじっと見ていた。
「なんだ、アメ、シン、友達違うじゃないか。」
「ん?何だ?タロー。」
タローはマスクの上から両手で目を塞いだ。
「タロー、見ない見ない。だから、二人とも遠慮するな。
がしっとか、ぶちゅっとか。」
二人はまた真っ赤になった。
「子供のくせに何考えてんだよっ!」
アメがタローの頭をげんこつでごつっと殴る。
「うぇーん、イタイヨー!
シン、アメこわい、こわい。」
それを見てシンも苦笑いした。
「大人をからかうからです。」
「シンも赤い、赤い、タコ、タコー!」
「アメさん・・・子供を殴るのは私の本意ではありませんが・・・
しつけは必要ですよね?」
「うむ。」
アメはにやにや笑って、指をぱきぱきとならしてみせた。
「オレ、アメといる、そのほうが危険、思えてきた・・・」
シンは、ウィンダスへと旅立った。
アメは大きなかばんにタローを入れて部屋から連れ出すことにした。
「ゴブリンの店に連れて行く。
あそこに行けばタローの仲間がいるし、いい知恵をくれるだろう。」
「わかった。タロー、静かにしてる。」
「うん、あと競売に寄って、そのチュニックの履歴みていくわ。
あれじゃないかって思うのがあるんだ。」
「チュニック、白い袖、青い胴。
母さん、金の糸、銀の糸、きれいな刺繍してた。」
「うん、ノーブルで間違いないな。
タローの母さん、いい腕だったら、もしかしてアリストつくっちまったのかもしれないな。」
「タロー、チュニックの名前、わからない。」
「そか。じゃ行こうか。かばんに入ってくれ。」
「おう。やさしく、運べ。」
「注文つけてるんじゃねぇよっ。」
笑いながら、アメはタローの入ったかばんを背負うと、
パールを耳につけて部屋を出た。
アメは賑やかな下層の人ごみを抜け、競売のカウンター前に立ち寄った。
「こんち。アリストチュニックなんて出品あるかな?」
暗いカウンターの中から、がさがさとリストを調べる音と声が聞こえた。
「珍しいものですが、今は一点在庫がございます。
入札なさいますか?」
「いや、今は金がない。ひやかしで悪いな。ありがと。」
カウンターから戻ろうとして、並んでいる人にかばんがぶつかる。
「いてっ!」
カバンの中から声がする。
周囲の人達はアメをじっと見つめた。
アメは苦笑いしながら、
「いてっ、いてっ、あー。あー。喉の調子がおかしいかな?
なんつーって、あははははは・・・」
と、その場をそろりそろりと離れていった。
もとより、お互いをそんな気にしているわけではない。
すぐに皆、競売の品定めに忙しくなる。
「ふぅ・・・」
アメはしっぽでかばんをつんつんと突くと、
「声出すなよ、頼むから!」
と小さな声でささやいた。
タローは分かった、というように、アメの背中をツンツンとつついた。
それはアメの脇腹にヒットした。
「うひゃひゃひゃひゃ!そこはっ!」
急に笑い出したアメにまた周囲が目を向ける。
「いや、何でもない・・・お騒がせして申し訳ない・・・」
そそくさとアメはその場を離れた。
ゴブリンの店に着いたアメは、かばんを下ろしながら言った。
「タローのせいで、うち、危ない奴と思われたじゃないかっ。」
カバンの中から声がする。
「大丈夫、アメ、もともとあぶな・・・」
そこまで言うと、またアメのげんこつが飛んできた。
「うぇーん、痛いよー。」
タローはかばんからひょっこりと顔を出して、頭をさすっていた。
「もう出ていいぞ。ここなら、タローがいても怪しく思われない。」
小さな声でタローはぶつぶつと言った。
「母さん、やさしかった。
アメ、乱暴。
そんなんじゃ、男、逃げる。かわいそう。
今度、シン、考え直せ、言わなくちゃ。」
「ああん?言いたいことあったら聞こえるように言え^^」
「・・・・・・・なんでもない・・・」
「よろしい。」
アメはくくっと笑った。
「タロー、こっちへ。」
アメはタローをMackvixのところへ連れて行った。
「よぉ、マック爺。」
「ん?何かね?」
タローがアメの足元からおずおずと挨拶をする。
「あの、こんちは。オレ、タロー。」
「ほぉ、ゴブリンの客人とは珍しい。」
「うち、成り行きでこのタローをジュノに連れてきちまったんだけど、
やっぱまずいよな?どうしたらいい?」
「人間がゴブリンを連れてくるとは珍しい事もあるものじゃ。
なぁに、ジュノに出入りする許可と言っても、そう難しいものではない。
わしが話をしてやろう。」
「オレ、ウィンダスには母さんと出入りしてた。」
「なら、話は早いぞ。
許可もすぐにおりるじゃろう。
しかし、許可証など外では何の役にもたたんことも覚えておくのじゃ。
間違って冒険者に襲われたらそれまでじゃ。」
「うん・・・オレ、分かってる・・・」
マック爺はタローから母親の名前や職業などを聞きだすと、
少し待つようにと店から出て行った。
タローはかごに入ってるうさぎを眺めたり、
他のゴブリンの仕事を覗いたりして、何か話をしている。
暇を持て余し気味にそんな様子を見ていたアメにtellが入る。
「アメさん、私です。」
「おう、シンか。何か分かったか?」
「はい、注文者はサンドの貴族。ノーブルチュニックの仕立てを頼んだようです。
そして、もちろん品物は依頼者には渡っていません。」
「だろうな。ジュノにアリストの出品あるよ。
滅多に作れる代物じゃない。なんとなくこれが怪しいと思うんだ。
ただの勘だけどな。」
「そうですか。落札すると履歴も分かるでしょうが・・・」
「だなー。しかし、本名で出してるかどうか分からんぜ?」
「ですね、タローはどうしてます?」
「今、マック爺に手続きしてもらってる。多分、大丈夫。
タローの母さんもウィンに出入りしてたしな。」
「そうですか、よかった。
それでは私はもう少しチュニックについて調べておきましょう。
それが終わったらジュノに戻りますね。
また連絡します。」
「おう、ありがとな。」
話を終わって、ふとあたりを見回すとタローの姿が見えない。
「ん?タロー?どこだ?」
マック爺の声が応えた。
「わしが戻ってきたらタローに入り口のあたりで会ってな。
許可証を渡したんじゃ。
そしたら、タロー、ふいに競売の方に歩いて行ったぞ。
ジュノの中で襲われることはないだろうが。」
「ありがと。ちょっと追いかける。」
「ほいほい。タローに又いつでもここに来るように伝えとくれ。」
「分かったー。」
アメがtellに気を取られてる間もタローは店の中を探険していた。
仕事の様子やそこいらに置いてある物を眺めていると、
その様子を見ていたゴブリンから古いチュニックをもらった。
「お前、ジュノ初めて?」
「うん。オレ、初めて。」
「そうか、それじゃ、これやる。これ着ると、意外とばれない。
あちこち行ってみるといい。」
タローはそれを着てみた。
遠目、タルタルに見えないこともない。
「似合うぞ。」
チュニックをくれたゴブリンはわははと笑った。
「オレ、店の外も、見てみたい。」
それでも勝手に出歩くとアメに怒られるだろうから、
中から外を覗いてみようと店の入り口に向かった。
その時丁度マック爺が帰ってきた。
許可証を受け取り、その開いたドアの外を見ていると
アメと同じようなミスラがちょっと急ぐような風情で歩いていくのが見えた。
タローも今となっては、そんなミスラがいっぱいいるのは知っている。
でも、何かそのミスラには感じるものがあった。
タローはミスラの歩いていった方向へふいに歩き出していた。
アメを呼ぼうかとも思ったが、見失いたくなかった。