通路の途中には燭台のある交差点があった。
そこでは4人のタルタルがリッチ等の骨と戦っていた。
マイとルーンが駆け込む。
シンとナツキは別の通路からアメを探しに行っていた。
「すまん!聞いてくれ!」
マイが叫んだ。
驚いて振り向きかけるタルタル達。
「僕ら忙しいんです。ちょっと待っててくださいね。」
そう言って、リッチに精霊魔法を投げつける。
「それどころじゃ!」
つかみかかりそうになるマイをルーンが制した。
「マイさん!」
マイの前に立ちはだかり、悔しそうな表情を浮かべながらマイを見据えた。
こらえましょう、というように、マイの目を見ながら首を横に振った。
「分かってるが・・・分かってるよ!
だけど!
さっきからアメからの返事がねぇじゃねぇかっ!」
マイにはタルタル達の戦闘がひどくのんびりしたものに思えた。
「マイさん!それでも・・・」
タルタル達はリッチを倒すと、その崩れ落ちた骨の山の中をがさがさと探し始めた。
「う~ん、鍵ないねぇ・・」
「うん、ないねぇ・・」
マイはたまらずその中の一人のローブの胸元をつかむと持ち上げた。
「おい!こっちは時間がないんだ!」
「ひゃぁぁ!何をするんですか~!」
苦しそうにそのタルタルはばたばたと手足を動かした。
慌ててルーンはその手にぶら下がった。
「マイさん!やめてください!」
はっとして、マイはそのタルタルを下ろした。
「す・・・すまん。
だけど、教えてくれ!
赤髪のミスラか、ゴブリンの子供を見なかったか?」
怪訝そうな顔をして、タルタル達が顔を見合わせた。
「なんで古墳にゴブリンが?見てませんよ、そんなの・・・」
マイはそれを聞くと、
「分かった!すまなかった!」
と、駆け出していた。
「あ、マイさん!」
ルーンが追いかけようとして、すぐに立ち止まり振り向いて頭を下げた。
「仲間がここで危ない目にあってるんです。
御無礼をお許しください。」
そして、立ち去ろうとした時、タルタルの一人が呼びとめた。
「あ、待ってください。」
ルーンは立ち止まった。
「僕達が燭台を回っていて
一度ルートを変えようとスイッチを押したんです。
そしたら、しばらくしてまた誰かがスイッチを押したみたいで
仕掛け扉が動きましたよ。」
「え?」
「誰かが元に戻したんだなってさほど気にはしてませんでしたが・・・」
ルーンはぺこんと頭を下げた。
「教えてくれてありがとう。鍵取りがんばってください。」
「いえいえ、早くお仲間が見つかるといいですね。」
「はい、それでは!」
ルーンはマイの行った方に駆け出しながら、LSパールに話し始めた。
「鍵取りのタルタル達が、仕掛け扉が操作されたのを記憶していました。
僕達も協力して扉を操作しなくては、アメさんにたどりつけないようです!」
「アメさん!アメさん!」
走りながら、シンはアメの名を呼んでいた。
駆け回るうちにいつしかナツキはシンに遅れを取り、
シンとナツキはそれぞれにアメを探していた。
シンはパールでアメにtellを送り続けた。
「アメさん!返事してください!アメさん!」
そこにマイからtellが来る。
「シンさん!扉の操作が必要だ!スイッチは近くにないかい?」
シンは丁度大きな骨塚の並ぶ広間に来ていた。
仕掛け扉の操作台は、数箇所ある骨塚の広間から続く小部屋にある。
「近くです!」
「スイッチ押してくれ!」
「・・はい!」
スイッチを押すと、十字に交差する燭台の分岐で別のルートが開く。
スイッチを押した者は、再びスイッチを押してもらわなくては
そのルートには入り込めない。
自力で探しに行く道は断たれる。
スイッチのある小部屋に行くと、ボタンを前にシンは唇を噛んだ。
「・・・マイさん、今押しました。」
スイッチを押すと、マイにtellを入れる。
閉ざされた道の扉の前まで来て、シンはその扉を拳で強く叩いた。
「アメさん・・・!」
両手の拳を強く握り締めて、扉をもう一度叩きながら
シンは額を扉に打ち付けた。
もう一度tellを入れる。
「アメさん!声を・・・アメさん!!」
タローの目の前では、アメが静かに骨の山に沈んでいた。
「アメー!
起きて!アメーーー!!」
タローは必死に叫ぶが、アメの目は開かなかった。
カラカラという骨の音に混じって、誰かがアメの名を呼ぶ声がする。
その中に聞き覚えのある声が混じる。
「シン?シーーン!!」
タローは叫ぶが、その声はシンにもLSにも届きはしなかった。
どうしよう?
タローは怖くて、足ががくがくとふるえた。
でも・・・
母さんを殺されたばかりで、また自分の目の前で誰かが死ぬのは嫌だ。
膝ががくがくと震えるけど、タローは足を骨塚に進めた。
母さん!
ぎゅっと目をつぶると、心の中で母さんを呼んだ。
母さん!俺、がんばる!
そして、えいっとアメ目掛けて骨塚に飛び込む。
タローの重みで、沈むスピードが幾分か速くなる。
「ひーーーっ!落ちる、落ちる!!
アメ!アメ!アメ!」
ぽかんと口が半開きになって、目を閉じたままのアメの胸の上に乗った形になって
タローはアメの頬をぺちぺちと叩いた。
「アメ!起きろ!アメ!アメ!」
アメの唇が微かにぴくんっと動いた気がした。
「アメ?」
タローとアメは、しかし、そのまま骨の山の中に姿を消してしまった。
「む?誰だ?こんな時に!」
その時、丁度ナツキが進もうとした目の前の扉が閉まった。
同じルートを戻るしかない。
「俺だって必死なんだ・・・」
ナツキはブツブツ言いながら、操作台の所まで戻りスイッチを押した。
ふいにシンの目の前の扉が開いた。
はっと顔を上げ、シンは駆け出していた。
「ありがたい!」
骨の底に沈んだアメとタロー。
骨塚が抜けた底に別の古墳への道が続いていた。
何者かが侵入してきた気配に、そこにいた二体のエルヴァーンの亡霊達が振り向く。
大剣を構えると、その暗い瞳で何かを捉えようとする。
しかし、そこには何もいなかった。
いないように見えた。
エルヴァーンの亡霊達は、また虚ろに背を向けると、
少し歩いては立ち止まり、侵入者を探ろうとしているようだった。
「(タロー、ありがとな・・・)」
アメは唇の端に微かな笑みを浮かべると、声にならない声で礼を言った。
タローは壁際で横たわるアメの前でエルヴァーンの亡霊を見ながら、
震えて立っていた。
骨塚に沈みゆく時、タローに必死に叩かれて
アメは目を覚ました。
そして気力をふり絞って何とか手だけを動かすと、ポケットを探りサイレントオイルを取り出した。
それを自分とタローにふりかけると同時に、固い地べたに体を打ち付けた。
アメの唇がまた微かに動く。
タローは耳を近づけた。
「(オイルはしばらくすると効き目がなくなる・・・)」
アメの手を見ると、もう3個のオイルの小瓶が握られていた。
もともとゴブリンの店に行くだけだったはずのアメは
ポケットに入れっぱなしになっていた分の薬品しか持っていなかった。
「アメ、俺、ゴブリン。サルタにも、こわいおばけいた。
でも、俺、襲われたことない。
俺、大丈夫。」
そっか、とアメの唇が動いた。
あのミスラに後頭部を思いっきり殴られたアメが弱ってきているのはタローが見ても明らかだった。
オイルが切れると、きっとこの亡霊達はアメをたちまち彼らの世界に引きずり込んでしまうのだろう。
オイルが馴染み、その効力が薄れてくるのを感じた。
タローは慌てて、次のオイルをアメの足元に振りかけた。
オイルの切れたタローの動く音にエルヴァーンの亡霊が反応した。
静かにこちらに向かってくる。
一人のエルヴァーンが剣を構えて、首をかしげた。
「ナンダ、オマエハ?ゴブリンデハナイカ・・・」
もう一人も剣を構えたまま動きを止めた。
「ナゼニ、ゴブリンゴトキガ、コノ神聖ナ墓所ニハイリコンダ!」
大剣を構えたエルヴァーンの亡霊が、タロー目掛けてその剣を振り下ろした!
タローはぎゅっと目をつぶった!
しかし、その剣はタローの体を切り裂く事はなかった。
「ヌゥ・・ワレラノネンハ、セイアルモノヘノモノ。
獣人ヲ葬ルコトハカナワヌカ・・・」
「ムネンダ!シカシ、不快デアル!
ソコノゴブリン!ソウソウニココヨリ、タチサレイ!」
「ソウダ、タチサレイ!」
怖くても怖くても、立ち去れと言われても、タローはそこを動くわけにはいかなかった。
亡霊達はオイルが切れると、アメをすぐにでも八つ裂きにしてしまうだろう。
どうしよう?どうしよう?
「ム?」
亡霊達がタローの背後を見据えようとしている。
アメのオイルが切れかかっている!
タローは急いでまたオイルをアメに振りかけた。
「何者カガ、イルナ?」
「ゴブリン、ナニヲシタ?」
「な、何も、いない!何も、してない!」
オイルはあと一瓶になった。
タローは叫んだ!
「助けてー!シン!助けて!」