シノブの二度目の攻撃を、両手の拳を頭上で交差して
マイは確実に防いだ。
すかさず剣を返した瞬間、マイはシノブの懐に飛び込み、
右手で胴、左手であごを打ちあげる。
シノブも半身でそれをかわし、左手の拳は鼻先をかすめて宙を切った。
胴、面と細かい切り替えしで休みない反撃が来る。
マイは避け切れない攻撃は腕で受けつつ、時に間合いを詰め、
蹴りやパンチを狙う。
決定打を欠くものの、傍目には防御の腕にダメージを蓄積しているマイが
少しずつ体力を削られているように見えた。
容赦なくシノブはマイの喉元めがけ突きを繰り出す。
ふわりとそれを避けると、左肩の上を木刀は風を裂く音をさせながら通り過ぎる。
「くっ!」
その体勢が崩れたところをマイは見逃さない。
コンボで連続の打撃を叩きこむ!
最後の一打の衝撃で、いや、それをかわすようにシノブが後ろに飛ぶ。
「うまくダメージ減らされたな。」
マイはにやりと笑う。
「拳の方は腑抜けのようではござらんな。」
唇の端に微かな笑みを浮かべると、シノブは再び木刀を構える。
「そりゃどうも。」
今度はマイからシノブの間合いに飛び込んだ!
二人の実力は拮抗しているように思えた。
少しずつ体力は削りあっているものの決定打が出ない。
既に東の空に日は登り、丘の上からその姿を全て現そうとしていた。
シノブの太刀筋は正統な剣術のものであり、
読みやすいが手数と技の組み合わせが多彩だった。
それに対してマイの動きは実戦で培ったものであり、
読みにくく唐突だった。
アメは、この勝負長引けばマイに有利だと感じた。
隙はいくらでも見つけれる。マイが勝ったな・・・
激しい切り返しの後、マイが後ろに間合いを取ろうと飛ぶ。
その時肩越しにちらりと背後を瞬間見やると、アメに視線を送った。
アメがその視線を捕らえ、マイの後方に駆け出す。
シノブがマイの視線が自分から逸れた瞬間を見逃すはずがなかった。
四之太刀・陽炎!
木刀が炎を纏って振り下ろされる。
額への直撃は何とか避けたが、肩から胸部にそれは命中した。
「つっ!」
マイがたまらず片膝をつく。
シノブはそこに木刀を再び振りおろし、マイの頭上でぴたりと止めた。
マイがそのまま腰を下ろしながら言った。
「だな。今のでビンゴっすな。」
シノブはマイを見下ろしながら、木刀を腰に納めた。
マイはやれやれというように言った。
「おーけー。俺の負けだ。」
マイを見下ろしながら、シノブは何も言わなかった。
「ん?どした?」
不思議そうにマイはシノブを見上げた。
「マイ殿は・・・」
「はい?」
「マイ殿は、そうやってのらくらといい加減に生きておられるか。」
「ぅぉぃ。何それ?」
マイは苦笑した。
シノブはシンを見た。
「シン殿。この勝負、拙者の勝ちと思われるか?」
シンは静かに微笑んだ。
「シノブが決めることでしょう。」
シノブは大きくため息をついた。
「これが戦場での戦いであれば、これは拙者の勝ちでござる。しかし・・・」
マイは微かに笑った。
「なんだ、気づいてたのね?」
「勝負を優先させた己の判断は悔いてはござらん。
しかし心が晴れないでござる。」
「自分の勝ち~って宣言しちゃえばいいじゃん。
シエラちゃんの貞操は安全になるぜ?」
「マイ殿のそういうところは、きっとこれからも好きにはなれん。」
「うひゃ」と、マイは肩をすくめた。
シンがゆっくり二人に近くに歩み寄る。
アメも戻ってきた。
「で、どうなったん?」
「アメさん、勝負はシノブがマイさんにまいったと言わせたのですが・・・」
「ほう、そっか。マイ、すっぱりシエラちゃん諦めな。」
アメがけらけらと笑った。
シノブが目を閉じて考え込む様子を見せ、
すぐに目を開けマイを見て言った。
「この勝負シン殿に預けるでござる。
しかし、マイ殿心されよ。
シエラ殿を泣かせるようなことあれば、
何度でも次の果し合いがあると。」
マイは大げさに困ったような顔をした。
「うちら水と油っすね。まぁ、前向きに考えますって・・・」
激しい切り返しの後、マイが後ろに間合いを取ろうと飛ぶ。
その時肩越しにちらりと背後を瞬間見やると、アメをちらりと見た。
アメがその視線を捕らえ、マイの後方に駆け出す。
そこには蜂蜜や蜂の巣の欠片を集めながら、
ジャイアントビーを夢中で追いかけている
まだ駆け出しのようなタルタルの冒険者がいた。
決闘のことには全く気づかず、剣を振りかざしながら
「まてー」とジャイアントビーを見失わないように一生懸命追いかけ、
マイとシノブの方に走ってきていた。
「あぶねーよっ!」
アメは正面から駆け寄ると、そのタルタルをひょいと小脇に抱えあげた!