「タロー、早くこいよー!」
ギデアスに向かう道すがら、
タローはギデアスに向かう人間達を見逃すまいとあたりを見回すため、
なかなか先に進めなかった。
「どうした?連れて行かないぞ?」
マーがいらいらしたように言う。
「す、すまん。歩きにくいだけ。」
実際人間に見つからないように道の脇の岩場を進んでいたのだが、
急かされたタローは、
マーの姿を見失わないように歩みを速めた。
ギデアス入り口に近づいた時、マーが急にぴたりと止まった。
「見ろよ。きっとあいつらだ。」
ギデアスに小走りに急ぐ4人の人間が見えた。
人間達はその実力によって、身に纏える装備が変わる。
そこに見えた4人の出で立ちは、
明らかに闘技場に用事がある者のように見えた。
タローは目を凝らす。
と、タローは思わず息を呑んだ。
よくは見えないが、黒い装束を身につけている人間はシンに見えた。
「シ・・・!」
思わず、タローは叫びかけた。
マーが慌ててタローを後ろに引っ張った。
「ばか!ばれるだろぉ?」
「す、す、す、すまん。
俺、くしゃみ、そう、くしゃみ出そうだった。」
「ったく・・・。あんな奴らに見つかったら、一発で殺されちまうぜ?
気をつけろよな?」
「うむ。す、すまん。」
近くで見たわけじゃないけど、あれはシンだ。
ずっと一緒にいたのだから、違う人間と見間違うわけはない。
アメの時とは違う。
もう、人間も同じように見えていろいろいるのを知っている。
あれ、シン、きっとシン・・・ああ、俺・・・俺・・・
とりあえず、確かめたかった。
マーについていきながら、こっそりパールを身につけた。
ギデアスについても、相変わらず歩きにくい場所を進んでいく。
マーは身軽にひょいひょいと進むが、タローはついて行くのが精一杯だ。
「タロー、はぐれないようについてこいよ。」
闘技場へは、ヤグードしか知らない道があるらしい。
神聖な場所だから、人間達は簡単に足を踏み入れられないようになっているが、
マーについて歩いていくと、茂みの中の隠し通路や、
岩場の陰でとても見つけられないような通路を通っていく。
一度ではその順路はとても覚えられそうにもない。
「マー、俺、おしっこ!」
タローを振り返り、マーはあきれたような声を出した。
「お前、もっと早く言えよ?
このあたりならまだそこらでしてきていいから。」
「う、うん!」
タローは端にある少し大きめの茂みの陰に駆け込んだ。
アメに教えてもらったやり方でシンにtellを入れる。
「シン?俺、タロー!」
マーに聞こえないように、小さく話しかける。
「タロー?どうしました?」
シンが応答した。
「シン、ぶとかい、来たのか?
シンの言ってた試合、やぐーど、ぶとかいか?」
「そうですが・・・?」
恐れていた事態が起こってしまった。
「シン・・・つよいよな?」
「タロー?」
「シン・・・しぬな!」
「タロー?何があったんです?」
シンの問いかけにはタローはもう答えなかった。
いつまでも、おしっこのふりもしていられない。
タローは急いでアメにtellを入れた。
「アメ!俺!シン、危険!」
それだけ急いで言うと、パールを外してしまい込んだ。
がさがさと茂みから出て行くと、マーに急かされた。
「早くしないと始まっちゃうぜ?」
「おぅ・・・!すまん、すまん、急ごう。」
「タロー?」
前日、遅い時間までフワについていたアメはまだジュノのベッドの中にいた。
フワからいつ連絡が入ってもいいようにと、
この日は珍しくパールをつけたまま眠り込んだのだが、
飛び込んできたのは確かにタローの声だった。
眠い頭にも最後の言葉は残っている。
シン、危険!
何だ?どういうことだ?と、アメは事態を把握しきれないでいた。
「タロー?お前タローだよな?返事しろ!」
確かめようと懸命に呼びかけるが、タローの返事はない。
ベッドに起き上がり、シンに話しかけてみることにする。
ふと、昨日フワの部屋から垣間見えたシンの姿が思い出される。
「よぉ!シン?うちだけど・・・」
「アメさん?」
シンは驚いたような声を出していた。
「シン?タローが変なtellよこしたんだ。今何してるんだ?」
「以前お話した、ウィンダスのミッションでギデアスにきていますが?」
「ああ、バルガの武闘会か。
タローが、シンが危険だってtellよこしたんだ。何かあったのか?」
「危険?私にもタローからtellはありましたが・・・」
「うむ。そういえば前に変わった形式の武闘会だって聞いた事あったな?
おかしいことがあったのか?」
シンは、仲間が始めから戦闘放棄の様子な事を伝えようか迷った。
「いえ、特には・・・」
「シン、何かあるのかもしれない。
タローの声、切羽詰ってたぞ。」
「気をつけてヤグード達の様子を見てみることにします。」
「シン、タローはお前になんて言ってたんだ?」
「あ、別に大したことは・・・」
「シン?なんて言ってたんだ?」
「アメさん、私は大丈夫です。」
「シン?」
「タローは私に死ぬな、と言っていました。」
「死ぬな・・・だって?」
「私は負けません。大丈夫です。」
「シン、タローは何か知っているのかもしれない。
油断するな!」
「はい、もとより慢心等ありません・・・
もうすぐバルガの舞台に突入します。
全て終わったら又連絡しますよ。」
「分かった。」
アメの心の中にいいようのない不安が広がった。
シンも、自分達の戦力に不安がある事を伝えなかったことが
よかったのかどうか分からなくなっていた。
シンは強いから、大丈夫さ・・・と心の中でつぶやきながら、
アメはLSで叫んでいた。
「誰かメアまで飛ばしてくれ!」
朝から吹いている強い風は、強い日差しの中
昼になっても弱まることはなかった。