マウラの初夏の風に吹かれて
船が来るのを待っているミスラの女の子は
大きさから言うとまだ魔法学校に通うぐらいの年に見えた。
でも、その子は他のミスラの子供が着ているような
膝下までのスカートははいていなかった。
ぺったんこの胸には白いチューブトップが
大き目の腹巻のように巻きついている。
その上から襟のない緑色のベストと
そのベストとお揃いの緑色の膝下までの長さのスパッツをはいていた。
一目でシーフのアーティファクトを真似たものだと分かる。
余程腕のいい裁縫職人が
彼女のために作ってくれたような服装だった。
「ママなんか・・・」
ミスラの女の子は海を見つめながらぽつんと呟いた。
何かを思い出して悲しくなったのか、
目の端に涙の粒がじんわりとふくらんでいる。
「あたしだってもう大丈夫だにゃ・・・・もん!」
ふと、ママの言葉が頭をよぎる。
「にゃーにゃー赤ちゃん言葉も抜けないやつを連れて行くわけにはいかないよ!」
「コティ、もうあかちゃんじゃないにゃ・・・・もん!」
「ほら、だめだめ。」
「コティも行くー!ママと行くー!」
「冒険者ってのはな、それなりの腕がないと危険なんだよ!」
「大丈夫、コティちゃんと修行してるにゃ!
それにママ、
コティ、もうそこいらの新米冒険者のタルタルよりつぉいにゃー!」
コティが夢中になるほど、ママに言われた赤ちゃん言葉がつい口に出てしまう。
そんなコティをママは厳しく見つめ返した。
「だめったらだめ!
ママが認める腕前になるまでは遠くへ行ってはダメ!!」
「コティだって、じゅのとかあとるがんとか遠くのお国に
い き た い にゃーーーー!!!」
そう、コティは戦闘に出かけようとするママについていこうとして
思いっきりダメ出しされたのだ。
で、
ママより先に家出してやったのだ。
大人と同じような格好をして、
といってもママのお友達の裁縫職人さんに
お誕生日に特別に作ってもらった大事な一張羅を着込んで、
密かに貯めていたお金でチョコボに乗ってマウラまで来たのだ。
あたしにだってこれぐらいのところまでなんて簡単に来られるんだから!
ぷるぷると涙の粒を振り払うように、左右におもいっきり顔をふると
今度は少し怒ったような顔になる。
「コティだって、あとるがんまで行ってやるんだから!」
そう心に決めて、船に乗り込んだ。
だけど、この船ったら釣り客とのんびりした冒険者しか乗ってない。
コティは恐る恐る船室の近くの売店の店員さんに聞いてみた。
「あの~、この船って・・・どこ行くにゃ?」
ママがいないから、もう別に言葉を気になんかしていない。
「え?セルビナ行きだけど?」
「え?せるびないき?」
「そうだよ。」
「え~~~。」
「いや、え~~って言われても・・。」
「だって、だって、あとるがん行きたかったにゃ~~!」
「それなら一便待たなきゃだめだったんだよ。
セルビナに着いたら、またマウラに戻って、
そしてちゃんと確認して・・・って、お父さんかお母さんは一緒じゃないの?」
「あたし、子供じゃないにゃ!冒険者にゃ!」
コティはほっぺをぷーっと膨らますと、
階段を上ってデッキのほうへすたすたと歩き始めた。
階段の下から心配そうな声がする。
「今日は海にいやな霧が出ているよ!船室で大人しくしてな!」
失礼しちゃう。
たにんまでコティのことをこどもあつかいしてるにゃ。
デッキには数人の釣りを楽しむ冒険者と、
どこからか這い登ってきたのかクラブがとことこと歩いている。
クラブは誰かが海に流した青銅の箱を、その甲羅の中に隠し持つ性質があるって
ママに聞いたことがある。
試しに一匹倒してみようか、コティだってそのぐらい・・・
と、クラブを見つめていると、ふとクラブと目があった・・・気がした。
はさみをシャキンシャキンさせて、コティを威嚇してる。
なまいきなクラブだにゃ~~~!
その時、釣りを楽しむ魔道士風のタルタルがコティに声をかける。
茶色いぼさぼさの頭のタルタルだ。
ママのお友達にも似たようなタルタルがいたっけ。
「きみ、カニと戯れるのはいいけど、どうも今日は天気が怪しい。」
「たわむるれるれてなんかないにゃ。」
知らない言葉で話しかけられ、思わず噛んだ。
とりあえずばかにされている気がしたので否定してみる。
釣りタル(心の中でそう呼んだ)は、しかし茶化すふうでもなく真面目に続けた。
「このどんどん濃くなる霧は・・・来るよ?」
「来る?・・・・のにゃ?」
「うむ。」
釣りタルは魚がかかったのか、竿を持つ手を懸命にあやつりはじめた。
そして、釣りタルと同じぐらい大きなググリュートゥーナを釣り上げ、
釣り針から外しながら言った。
「ほうら、聞こえてきた。」
コティはぴくぴくと耳をすませた。
霧の向こうから、どーんどーんと重い大砲の音が聞こえる。
「かっ。。。海賊にゃ!」
コティの全身の毛がぶわっと逆立った。
「早く船室に戻って、乗務員に知らせて。中で静かにしていたら大丈夫だから。」
「お・・・おにいちゃんはどうするにゃ?」
「いや・・ぼくは海賊なんて平気だから釣りを続けるよ。」
「あっ・・・あたしだって平気だにゃ!あたしだって平気だにゃ!」
「いや、無理すると死んじゃうよ?ここは安全にやりすごしなよ。」
「あたし、強いから大丈夫にゃ!」
強がってみせても、コティの声は微かに震えていた。
「やれやれ、仕方ないなぁ。」
釣りタルは釣りを止めて、周りの釣り人に声を掛ける。
「みんな!海賊が来たら撃退よろしく!」
どうやら釣りを楽しんでいた人々は皆仲間だったようだ。
二人のやりとりを聞いていたらしく、それぞれに了解の返事をかえす。
強がってみせたけど、実際コティはママと一緒なら
やっとタロンギの谷まで狩りに行けるぐらいの腕前。
御伽噺の世界のことのように思っていた海賊が本当に来るなんて・・・。
夜遅くに西サルタバルタの星降る丘に出かけたときのことを思い出した。
一人じゃなかったからよかったけど、
うろうろと歩き回るガイコツを初めて見たときは、
体中から温度が吸い取られていく気がした。
近づいてくる海賊船に、コティは目を丸くした。
あのいっぴきでもこわいガイコツがうじゃうじゃのっている。
歯をカチカチと鳴らしながら、こちらを見ている。
皆自分を狙っている気がした。
コティは泣きそうになった。
船に乗ってから、初めて本当に怖いと思った。
そんなコティの肩を後ろからそっとタルタルのおねえさんが抱きしめてくれた。
「大丈夫よ。私たちから離れないでね。」
「だっ・・・だだだいじょうぶにゃ・・・っ。」
一応コティも持っていた短剣を構える。
海賊船が船に横付けされ、手馴れた様子でガイコツ達が大きな板をデッキに渡す。
そこから、がちゃがちゃと海賊達は船に乗り込んできた。
釣りタルのおにいちゃんは、黒魔道士だったようだ。
長い杖を振り回しながら、大きな炎であっという間にガイコツ達を焼き尽くす。
でっかいガルカのおにいちゃんはばきばきとガイコツ達を拳で砕いていく。
剣を華麗にあやつるヒュームのおにいちゃんや、
棍棒で荒々しく殴りかかるミスラのおねえちゃん。
コティは目の前の戦闘をただ見つめていた。
そのうち、こんなに強いおにいちゃんやおねえちゃんと一緒だから、と
コティは安全な気がしてきた。
炎に焼かれ、崩れ落ちていくガイコツのほうにするするっと
短剣を構えたまま近づいた。
あたしも、このガイコツなら勝てるにゃ!
そのコティを見つけると、皆が真っ青になった。
釣りタルが叫んだ。
「だめだ!まだ死んでない!!」
「え?」
と、振り下ろす短剣の先を見ると、炎に包まれたガイコツが
コティに大きな鎌を振り下ろそうとしていた!
恐怖にコティは声も出なかった。
目をつぶることも出来ずに、目の前の炎を纏ったガイコツが振り下ろす、
赤く焼け爛れた鎌が目に映っていた。
コティは体がふわりと浮かんだような気がした。
なんだか懐かしい匂いもする。
一瞬で死ぬって、こういうことなのかなとコティは思った。
ごめんなさい、ママ・・・
しかし、崩れ落ちたのは目の前のガイコツだった。
コティはしっかりと抱きかかえられ、
コティを助けた者にガイコツは止めの一撃を食らっていた。
釣りタル達はほっと胸をなでおろした。
「危なかった・・・。」
しばらくガイコツ達の相手をしていると、
海賊船から渡された板はするすると収納された。
口惜しそうなうめき声を残しながら海賊船は遠ざかり、
デッキに散らばった骨の残骸もいつの間にか跡形もなくすーっと消えていった。
釣りタルはコティを助けた忍者装束に身を包んだヒュームにお礼を言った。
「いやぁ、本当に危ないとこだった。ありがとう。」
すると、コティを抱きかかえたヒュームはにっこりと微笑んで軽くお辞儀をした。
「いえ、こちらこそお礼を言わなくてはいけません。
娘を助けていただいてありがとうございました。」
その声に、ただしがみついていたコティは顔を上げた。
「・・・・・パパー!」
そのヒュームはコティの頭を撫でながら、釣りタルに言った。
「どうも母親に似てガンコな娘でして。
最後までただ成り行きを見守るつもりでいて、ご迷惑をおかけしました。」
釣りタルは笑いながら言った。
「ガンコなミスラの奥さんですか。たいへんですねぇ。」
それから少し世間話などして、タルタル達はまた釣りを始めた。
パパはコティを抱っこしたまま舳先へ行って前方を眺めた。
霧が晴れ、気持ちよいお日様の光と涼しげな海風の向こうに
セルビナが遠く見えてきている。
コティは目に涙をいっぱいためていたけど、泣かなかった。
「パパ・・・ごめんなさいにゃ。」
「パパはいいから、帰ったらママに謝りましょう。
ママのほうが心配していたに違いないから。」
コティは素直にこくんと頷いた。
「あと、ちゃんとコティからおにいちゃんたちにお礼を言ってきなさい。
もう自分で立てますね?」
コティはもう一度こくんと頷いた。
パパの腕からひょいと降りると、釣りタル達のほうに駆けていく。
ぺこりとお辞儀をしながらお礼を言って回ると、急いで戻ってくる。
「パパ?」
「なんです?」
「コティもママもガンコ?」
「え?いや・・・あの・・・ママには内緒にしてください・・・。」
コティはにやりと笑った。
ハイプリーストは激昂するシンの様子を楽しむかのように眺めながら言った。
「ああ、生ぬるいわ。
ここまでの五分の勝負、決して我々の心を慰めるものではない。
お前をここで八つ裂きにでもしなくてはな。」
シンは軽く身構えた。
「ふ・・・まぁ、そう気負うな。
親善試合となっている以上、そこまで出来る訳ではないのだ。」
「何を・・・!ここまでの試合、皆殺しにでもしようかというような
運びだったのではないですか!」
「分からぬだろうな、我々の目論見。
・・・・・くっくっく・・・まぁよい。」
ハイプリーストはカー・トルに目配せをした。
すかさずカー・トルが「試合開始!」と宣言をする。
「どこまでも卑怯な!」
シンが空蝉を唱える間もなくハイプリーストの詠唱が終わる。
スリプルII!
「くっ・・・」
シンはその場に構えて立ったまま、意識が混濁した。
「お前など我の相手ではないわ。」
ハイプリーストはシンの目前で言い放った。
ヤグードたちは狂喜した。
「シン!起きろぉっ!」
アメが悲痛な声をあげる。
他の者達もその様子を絶望的な眼差しで眺めていた。
タローがアメの名を呼びながら、その側に駆けつける。
ハイプリーストは周囲を見渡し満足そうに笑った。
「皆のもの!
こやつを血祭りにあげるのは容易なことなのだ。」
歓喜の声がそれに応える。
「しかし、盟約を破ったとなるとギデアスには人間どもが押し寄せる!
お前達の力では、防ぎきることは不可能であろう!」
歓喜の声がざわめきに変わる。
「この勝負、我に預けよ!」
そう言い終わると、ハイプリーストは又シンの正面に向き直り、
軽く肩を押した。
シンの体は簡単に崩れ落ちた。
意識が戻りきる前に、すかさず次のスリプルを詠唱する。
シンはまるで人形のように舞台に転がった。
ハイプリーストはその様子を満足げに見下ろした後、
シンに背を向け舞台を悠然と降りてしまった。
「・・・・あ・・・こ、これは・・・」
カー・トルがその真意を突き止めかね困惑していた。
ハイプリーストは振り向き、宣言を促した。
「どうした?両者に戦闘意志がないのだぞ?」
「は、はい・・・この勝負、ひきわけとする!」
ざわめきの中には不満の声が混じりはじめる。
ハイプリーストは再び舞台に上がると、
周囲をぎろりと睨み渡し、恐ろしい声で言い放った。
「言いたいことは拳で言え!我にお前達の力を見せてみよ!」
その威圧感にヤグードたちは静まり返った。
「修行するのだ!その先に我らの栄光はある!」
ヤグードたちは息を吹き返したように各々が鬨の声を上げた。
ソノタがおどおどと舞台の裾に駆け寄り、シンにケアルを唱えた。
シンは背中からゆっくりと起き上がり、悔しそうに俯いたまま舞台から降りてきた。
カー・トルはその後試合の引き分けを宣言し、
ヤグードたちもばらばらと自分の持ち場へと戻っていく。
ストラもエッキも、既にソノタの回復魔法で生気を取り戻していた。
ストラがシンに声をかける。
「シンさん、どうか顔を上げてください。
我々は負けてはいません。
ウィンダスとヤグードの均衡は保たれたのです。」
エッキもシンの肩を叩きながら励ました。
「おぬしばかりに迷惑かけたのう。すまんかった。」
「ううん・・・迷惑だったらボクのが一番かけたから・・・
ボクのせいで、もう少しで大変なことになってたかもで、
実際シンさんの、えっと、あの・・・アメさんが大変な目にあったみたいで、
だから、その・・・ごめんなさい・・・」
ソノタも頭をかきながら詫びた。
「いえ、皆さんがご無事ならそれでいいのですよ。」
シンはやっとで顔をあげ、力ない笑みではあったが皆ににっこりと微笑んだ。
そして、アメの姿を探した。
アメは皆のちょっと後ろに、にやにや笑いながら立っていた。
アメは新しいダブレットを着ていた。
「あ・・・アメさん・・・」
そう言いかけて、シンはアメの足元にタローの姿を見つけた。
「タローでしたか、ありがとう。」
アメは可笑しそうに笑いながら、シンに上衣を差し出した。
「新米冒険者みたいだろ?ちょっとはかわいいか?」
アメから上衣を受け取りながら、シンはやっとでやさしそうな笑みを浮かべた。
「いや・・・えーっと、お似合いです・・・」
「ひでーな、うち、そんなに弱っちく見えるかぁ?」
「そんな意味では・・・」
二人のやりとりに皆もくすくすと笑った。
その時、シンは背後にただならぬ気配を感じ、振り返った。
そこにはハイプリーストがオズトロヤの戦士達を従えて近づいてきていた。
シンの顔つきが見る見る険しくなった。
ハイプリーストは愉快そうにその姿を眺めて言った。
「どうした?不満か?」
「何故・・・勝負を避けたのです!?」
「知りたいか?知りたいなら、そして我を真に憎むなら、
オズトロヤに来い!命を賭してその答えを聞きに来い!
最深部にて待っていよう!」
そして、シンの返事を待たずに、
オズトロヤのヤグード達はプレラットの唱えるデジョンIIで次々に姿を消していった。
互角
この経過にヤグードたちは苛立ちを募らせた。
オズトロヤの戦士達でもこの様か、といった言葉を小さく吐き捨てる者もいた。
しかし、皆それ故に最終戦の圧倒的な勝利を信じて疑っていない。
小さな不満がやがて大きな喜びに変ることを
うずうずと待ち構えているようだった。
そのような異様な雰囲気の中
アメの試合中からタローはヤグード達の足元をうろうろと歩き回っていた。
試合に夢中になって、ヤグードたちは身に着けている数珠や
隠し持ったクリスタルを不用意に落とす者もいる。
タローはそれらを探し回り、見つけるたびに拾い集めこっそりと分解し草糸を作った。
草糸を集めるとダブレットが作れる。
それしかここでは出来ないが、
裸同然になったアメに着せてやりたかった。
リュックをごそごそと探り、雷のクリスタルを一個見つけた。
「よかった、これ、なかったらつくれない・・・」
あと数珠と風のクリスタルが一個ずつあれば草糸は足りる。
タローは一生懸命ヤグードたちの足元を探した。
時には無意識に時にはわざと蹴られたりする。
そのたびによろけたり、転んだりした。
でも、タローは泣かなかった。
「アメ、きっともっといたい、おれ、これぐらいいたくない。」
やっとで数珠を一つ見付け、大事そうに抱え込む。
だけど、あと一個の風のクリスタル。
それがどうしても見つからなかった。
試合が決着に近づくにつれ、ヤグードたちも益々殺気を帯びる。
タローは集団の後方にはじき出されてしまった。
闘技場は見えない。
が、爆発音と共に粉塵が舞い飛ぶのがタローからも見えた。
「アメ!・・・・」
思わず小さく声を出してしまった。
その時、タローの後ろから声がした。
「おかしいと思ってたんだよな。」
驚いて振り向くと、そこにはマーがいた。
「マー!」
「お前、人間の味方するのか?」
タローはうつむいた。
「俺、違う。どっちの味方でもない。」
「なんだよ、それ。」
「俺、アメに命助けられた。」
「アメ?」
「アメ、今戦っているミスラの名前。」
「タロー、お前人間に母さんを殺されたんだろう?あいつら、皆同じだ!
だまされるな、俺たちをいつか滅ぼそうと思ってるんだ!」
「アメ、だまさない!
アメ、命かけて俺、守った!」
「・・・・・・・・・」
「すまん、マー。俺・・・・」
マーは険しい表情のまま、タローに手を差し出した。
「謝るなよ。これ、探してるんだろ。やるよ。」
マーの手には風のクリスタルが握られていた。
「マー!これ、俺に?」
「やるってってんだろ!」
マーはそれをタローに押し付けると、くるっと背中を向けた。
「今日はもうおれに話しかけにくるんじゃないぞ。」
そう言って、足早にそこから立ち去った。
タローはぽろぽろと涙をこぼした。
「マー、すまん。今度、俺、今度ちゃんと、ちゃんと話す。」
タローはダブレットを完成させると、アメのいる陣営に急いだ!
アメに上衣を着せ掛けたまま、シンは舞台に上がっていった。
その眼は真っ直ぐ大僧正と呼ばれるヤグードを見据えていた。
大僧正、ヤグードハイプリーストも不敵な笑みを浮かべながら
舞台の下からその眼差しを捕らえていた。
ざわつく周囲の騒音から、何故か静かなハイプリーストの声だけが
シンの耳元に届いた。
「面白い。死にたいのか?」
「私は負けるつもりはありません!」
「そのような不十分な身形で、我に勝てると思うてか?」
「衣などなくとも十分です!」
「くっくっくっく・・・・・・・想う女が辱められたのがそんなに不満か?」
シンはかっとなった。
「そんなものではない!ここに来て、私と戦え!」
ハイプリーストはゆらりと舞台に上った。
歓喜の声が周囲から起こる。
その声を背中に受け、中央まで進んだハイプリーストは静かに微笑みながら、
しかし何かを考え込んでいるようでもあった。
「我は我々オズトロヤの戦士がこの戦闘で勝つことが必要だと思ってここにきた。」
シンは訝しげにその顔を見つめた。
「このような親善試合という生ぬるい力比べの場では、
それにも限界があることに気付いたのだ。」
「生ぬるい?」