夏はもう終わろうとしていた。
それでも、砂漠のど真ん中ではそんな季節の移り変わりは感じられない。
アメがラバオについたのは、暑さも和らいだ夕暮れ時だった。
ラバオにある大きなオアシスでは、涼しげな風が吹いている。
「どこにいるんだ?」
アメは、きょろきょろと周囲を見渡しながら、オアシスを回った。
半分ぐらい回ったところで、椰子の木陰に腰を下ろした。
tellでも入れれば、すぐに見つかるだろうけど。
そう思いながらも、とりあえずは何て言ったらいいのか、
言葉を探しておこうと思った。
椰子の木に背をもたれかけながら、腕組みをした。
「う~ん、今更ありがとう?でも、ありがとうだよな、とりあえず。」
頭の中でフワの怒った顔がちらついた。
苦笑いをしながら、アメはぶつぶつといろいろな言葉を試していた。
そんなアメを見つけ、人影が近づく。
「お久しぶりです、アメさん。」
聞きなれた声に振り向く。
「よぉ、久しぶり!」
アメはにかっと笑った。
そこに立っていたのは、黒い半そでのシャツにゆったりとした長ズボンを身につけた
シンだった。
「久しぶりだと言うのに、こんな格好でお恥ずかしい。」
シンはそういって控えめに笑顔を作った。
「暑いもんな。戦闘もしてないのにフル装備のほうがおかしいよ。」
アメも部屋で着ていた種族装備の赤いセパレーツのまま飛び出してきたことに
今更ながら気がついた。
「シーフ装備以外で会うのって初めてかもな。
あんまいろいろ似合わねぇし、うち。」
「いえ、そんなことありませんよ。」
よく似合ってますと続けようとしたが、気恥ずかしさが先にたった。
「そっか?」
頭をかいて照れるアメの横にシンは腰を下ろした。
「アメさん・・・」
「あのさぁ・・・」
二人が同時に口を開く。
シンは慌てて言った。
「あ、いえ、アメさん、どうぞ。」
「お、おぅ、あのさ、
フワが明日ちょっとした護衛に行くから、一緒にどうですかだって。
うちも行こうと思ってるし。」
「そうでしたか。
数日後ではありますがウィンダスのミッションを受けてまして、
その準備があるのでちょっと無理かと。
申し訳ありません。
フワさんにもよろしくお伝えください。」
「そっか、残念。
ミッションって何?
うちもウィンダス所属だから、出来るものだったら手伝えるけど?」
「もう募集は締め切られたと思いますが・・・
ウィン所属であるならバルガの武闘会のことはご存知ですよね?」
「ああ、ヤグードへの奉納品に影響するってやつな?うちも行ったことあるよ。
それだったら手伝えるけど、もう面子そろえてあるのか?」
「いや、今回は1対1の形式での対戦と言うことらしいです。
他にも参加者はいるようですがお互いに当日顔をあわせる程度で、
特に仲間と出かけるわけではありません。」
「ガチの勝負?そんな武闘会があったなんて聞いたことないな・・・」
アメは訝しげな表情を浮かべた。
「まぁ、とにかくがんばってこいよ。
シンだったら楽勝だろ?」
「ええ、ありがとうございます。」
フワからもらった話題はおしまいになってしまった。
ちゃんとお礼するですの!というフワの怒った顔が再び頭をかすめる。
アメは慌てて本題を切り出した。
「んっと・・・あのさ、シン、
いろいろ大変だったって、フワからもタローからも聞いてた。
その・・・本当、ありがとな。」
それを聞いて、シンは少しうつむいた。
「いえ、私のしたことなんて大したことありません。
それよりも・・・」
ちょっとの間があった。
「それよりも、あなたを助けられなかったことを悔いていました。」
アメは慌てて、シンの顔を覗きこんだ。
「お。おい!それは違うだろ?
うち、結局大丈夫だったし、シンだって助けようとしてくれたのは知ってるし!」
覗きこんだアメの眼をシンは見つめ返した。
意を決したようにシンは口を開いた。
「私はあなたを守りたかった。」
アメはその言葉に強い眼差しになる。
「うちは誰かに守ってもらいたいって思ったことはない。
そんな弱い気持ちじゃこの世界生きてけない!」
そして、また笑顔に戻って続けた。
「んでも、結局あのざまじゃそうも言ってられないけどな。
心配かけたな。」
シンは困ったように笑った。
「アメさん、あの、そういった意味ではないんです。」
「ん?」
きょとんとしてシンを見つめるアメ。
シンが言葉を続けようとして、ふと動きが止まった。
困ったような顔になり、
「ん~・・・アメさん、申し訳ない、ちょっと・・・すぐに答えないと・・・」
シンはそう言って急に顔を横に向けると、パールに向かって話しだした。
「ちょっと待ってください!落ち着いて!思いとどまりなさい!」
アメは、ああ、tellかLSで話しかけられたんだな、と理解した。
シンはLSのリーダーだから、私用の時も滅多にパールを外していられないだろう、と。
「しかし、ちょっと・・・そう、ラバオだけど・・・今は、あの・・・」
かなり困っている様子だ。
「え?もう来てる?」
シンはふいに立ち上がると気忙しくあたりを見回した。
そして、誰かを見つけると、そちらに視線が固定された。
「どうした?」
アメもつられて立ち上がり、そちらを見る。
涼しげな風が吹き始めたとはいえ、砂漠のど真ん中のラバオは暑い。
シンを見つけて、
そのくそ暑いラバオを、黒い忍装束に身を固めた
シノブがものすごい勢いで駆け寄って来た。
「取り込み中かたじけない!」
シンとアメに軽く頭を下げる。
「いや、ダボイ以来だな。久しぶり。」
アメもぺこりと頭を下げた。
シンはかなり慌てていた。
「それより、シノブ、一体何があったんです?」
二人のただならない様子を見て、アメは数歩離れようとする。
「あ、うち、いないほうがいいよな?」
「いや、アメ殿にも聞いてもらって構わないでござる。」
シノブの顔は真剣だった。
シノブが真剣なほどにシンは困り果てたような顔になっている。
「シン殿、止めても無駄でござる!
拙者、既にマイ殿に決闘を申し込んだでござる!」
「マイと決闘!?」
アメは驚いてシノブを見た!