タローは朝早くにアメに蹴り起こされた。
確かに起こせとは書いておいたけど、足でぐりぐりと起こすことはないんじゃないか?
そうも思ったけど、更にぐりぐりされそうだから黙っておいた。
タローは自分は大人だな、と思った。
こんな始まりの一日はあんまりいいことがありそうな気がしない。
でも、サルタバルタまでは、アメがチョコボに乗せてってくれるから、らくちんだ。
タローがアメと一緒にチョコボの背に揺られるのは二度目だ。
ソロムグでアメに出会ったときのことを思い出す。
ちらっとそんなことをアメにも、思い出してるかどうかとか聞きたかったけど、
アメが真剣な顔をしているので、なんとなく黙って乗っていた。
そしたら、アメがLSのパールをくれた。
アメの仲間とは大体顔見知りになってたのでうれしかった。
それでも、サルタでアメと別れた後は、友達にも会いたかったので、
そっとかばんにそれを仕舞い込んだ。
大事に大事に。
さて、友達に会うと言っても、朝早すぎる。
トリなら早いかな、とタローはギデアスの近くに住んでいるヤグードの友達を
訪ねることにした。
ヤグードの子供なんか見たことないって?
どこにいるかは教えられない。
タローは小高くなっている岩場をするすると登ると、
きょろきょろとあたりを見回し、ある岩陰にひょいと入り込んだ。
「おーい。」
「誰だ?」
「俺、俺、タローだ。」
暗い岩陰から、タローより頭一つ分ぐらい大きいヤグードの子供が現れた。
「タローか?」
「うん。久しぶり、マー、元気だったか?」
タローの友達の、このヤグード族の子供はMaa Yjuu(マー イジュ)。
「おばさんが殺されて、すぐにいなくなったから死んだと思ってた。」
「勝手に殺すな。俺、強い。」
「運がいいだけだ。」
「そうともいう。」
二人はからからと笑いあった。
二人はサルタを見渡せるような岩場の上に登って並んで座った。
いい天気だ。
マーがそのあたりの小石を投げながら言った。
「タロー、まだ人間なんかと仲良くしてるのか?」
「うん。」
「あいつら、俺達見るとすぐ殺しに来るし、
世界を支配しようとしている悪い奴らじゃないか。」
「殺したり殺されたり、一緒。
それに、俺、人間に助けられた。」
「人間に?信じられないな。」
「本当。アメがいなけりゃ、俺、死んでた。」
「ふーん。」
マーはアメが誰なのかも聞いて来ない。
タローの話には興味がないらしい。
「タロー、今度な、ギデアスで面白いことがあるぞ。
お前も見に来いよ。」
「面白いこと?」
「うん。ウィンダスからの奉納品が最近全然増えなくてさ。
変わった武闘会ひらくことにしたんだ。」
「ふーん。」
今度はタローが興味を持たなかった。
しかしマーは得意げに話を続けた。
「人間には秘密だぞ?
一対一の対戦なんだけど、今回はオズトロヤの戦士をこっそり呼んでるんだ。」
「ふーん。」
「今までと同じだと思って来る奴らだったら、まぁ八つ裂きにされるね。」
「ふーん。」
「お前、人間の味方なのに、それだけの反応?」
「人間、皆いいやつ、限らない。
知らない奴、やられても、ふーん、だ。」
「ふーん。」
「だけど、俺、しばらくここいる。それ、見ていくか。」
「そうしろよ。
それでさ、今日は俺んとこに泊まれよ。家行っても一人だろ?」
「うん。泊めてもらうの、ありがたい。
母さんのかたき探しに行く時、帰れないかもしれない、思った。
俺の家、もう、ない。」
そう言うと、タローはよっと立ち上がった。
「マー、俺、ウィンダス行ってくる。裁縫ギルド、用がある。」
「うん。気をつけろな。」
「おう。」
ゴブリンの友達には、ウィンダスに行った後に会いに行こうとか、
いろいろ考えながら、タローは歩き出した。
ホルトト遺跡に降りる入り口がある大きな塔を横切り、
水の区への入り口に差しかかる。
タローの視界に黄色いどんぐりのような頭のタルタルの冒険者が映った。
初期装備とかいうやつを着て、オニオンソードを差している。
あ、こっちを見た。
いやな予感がする。
あ、すらりんと剣を抜いた。
やっぱりか。
あああ、走ってくる。
駆け出しの冒険者なんか、今はタローの相手ではない。
・・・気もする。
しかし、ここで手を出すわけにもいかない。
「そこの、たるたる、待て!俺、敵、違う!」
「何を言ってる!ゴブリンはあくてぃぶぅー!」
やぁっと振り下ろす剣筋は分かりやすくて、へなちょこだった。
「ほら、俺、襲わない!むしろ、お前あくてぃぶー!」
振り下ろした剣をよいしょっと構えなおして、タルタルの新米冒険者は
きっとタローを睨みつけた。
「最近のゴブリンはだましうちもするのかー!」
「ほら、これ!」
タローはさっとジュノの入国許可証を出して見せた。
一瞬きょとんとした顔になったタルタルは、また剣を振るった!
「そんなもの見たことない!」
タローは唖然とした!
タローは逃げ出した!
「お前、あほーー!」
水の区の入り口はもうすぐそこだ。
後ろを見ると、剣を構えた冒険者がもう一人か二人ぐらい増えてるような気がする。
「アメー!タルタル、リンクー!!」
ああ、LSは大事に大事にかばんの奥にあるんだ。
油断しないで、付けてから出かけるんだった。
と、後悔してみても仕方ない。
やっつけられないことはない。
爆弾投げてやろうか・・・。
いやいやいやいやいや。
やっちゃいけない。門はすぐそこだ!
水の区の門を守る警備兵が、走ってくるゴブリンとそれを追うタルタル達を見咎めた。
「ん?タローじゃないか。どうした?」
普段から母さんについてウィンダスに出入りしてて、
本当によかったと、タローはこの時しみじみと思った。
説明する間もなく、新米冒険者たちが追いつくが、
警備兵の後ろにさっと隠れたゴブリンという妙な光景に、
剣を構えたままきょとんとしている。
「お前ら、このゴブリンを襲ったのか?」
「え?だって、ゴブリンはあくてぃぶ・・・」
「ばかもの!こいつは職人登録されている、友好関係にあるゴブリンだ!
許可証も持ってたはずだ!」
「え?そんな獣人いるの?」
「新米冒険者達!勉強しなおしだな!
後で天の塔から呼び出しがあるから、名前を言ってゆけぃ!」
タローは警備兵の後ろでちっちゃく勝ちどきを上げた!
「俺、一人で切り抜けた。アメ、心配するな。」
そうこっそり呟きながら。