「俺達、間に合わなかった。ダンデが死んだ。」
LSから流れるその声を、タローはウィンダスで聞いた。
丁度、裁縫ギルドを出たところだった。
ウィンダスに入ってからはパールをつけていたので、
フワの悲痛な叫び声も聞いていた。
「フワ・・・大事な人、死んだ。俺、同じ。
きっと、悲しい、悲しい、悲しい・・・。」
ぐすぐすと洟をすすりあげながら、とぼとぼと泉の方に歩いていく。
地図屋の前を通り泉のほとりに腰掛けると、
タローはえーんえーんと泣き出した。
ウィンダスの往来で大声で泣き続けるゴブリンという妙な光景に
人々はどう対処すべきか分からず、
遠巻きに通り過ぎていく。
と、ふいにポンとタローの肩をたたく手があった。
ぐちゃぐちゃのマスクのまま、タローがん?と振り返る。
「タロー、どうしましたか?」
そこには静かに微笑んだシンが覗き込んでいた。
「おお!シン!シン!
あのな、フワが、いや、ダンデが、さっき、LSで・・・」
「うんうん、ちゃんと聞いていますから、順番に話しましょう・・・。」
こくん、とタローは頷いた。
時々洟をすすりながら、タローは話し出した。
「フワ、ダンデ、なんかの仕事、くろらーのす?に行った。
フワ、助けて、叫んでた。
そしたら、助け、行った、アメ、マイ。
マイ、言った、間に合わなかった、ダンデ死んだ・・・」
シンは驚いた。
「ダンデさんが死んだんですか?」
「うん、俺、フワの気持ち分かる。
俺の気持ちと、きっと今同じ。
だから・・・だから・・・うっ・・・うわぁーーーん!」
シンはタローの隣りに腰掛けた。
「タローも、又悲しい記憶を思い出しちゃったんですね。」
泣きながら、タローはこくこくと頷く。
シンはその背中をぽんぽんと叩くと、静かに言った。
「タローががんばって歩き出したように、
フワさんもきっと乗り越えますよ。」
タローはぴたっと泣くのをやめた。
「俺・・・がんばってる。母さん、心配ない。」
ひっくひっくとしゃくりあげながらも、タローは泣くのを止めた。
「シン!」
「はい?」
「アメ知ったら、笑われる。
シン、俺、泣いてない!」
シンは頷いた。
「はい。タローは泣いていませんでした。
ここを通った人が見たゴブリンは別のゴブリンということで。」
「うむ。」
そう言って、タローはぴょんと立ち上がった。
「シン、ウィンダスにいる、何で?」
「ああ、私ですか?ウィンダスのミッションに参加するので、
準備がてら滞在していました。」
「みしょーん?」
「ええ、まぁ、試合のようなものです。」
「ふーん、そうか。それ、すぐなのか?」
「いえ、まだ日はありますが。」
「じゃぁ、俺、頼みある。ジュノ連れてけ。
自分で行く、すぐ行けない。
そして、俺、まだここに用事、ある。」
「裁縫の修行でも?」
「違う。友達と約束、ある。」
「そうですか、いいですよ。チョコボに乗せてあげましょう。」
シンも立ち上がると、チョコボ厩舎のほうへタローと一緒に歩き出した。
ふと途中でタローが立ち止まり、
ちょっと待っててと言うと、裁縫ギルドのほうに駆け出した。
程なくして戻ってきたタローの手にはコットンケープが握られていた。
「タロー、それは?」
「フワにやる。俺、作った。」
「タローが?そうですか。見事な出来栄えです。」
「だろー。俺、裁縫、天才的。」
シンはそうですねと頷き、再び厩舎のほうに歩き出した。
ジュノ。
タローはフワのレンタルルームの前に立つ。
シンは少し離れたところにいた。
慣れない手つきでトントンと扉を叩く。
しばらくして、扉が開けた。
出てきたのはアメだった。
タローは驚いた。
アメは扉から上半身だけをちょっと出すようにして、
訪問者の姿を探した。
フワの涙で濡れたキュロットは誰にも見せたくなかった。
視線を落とすと、そこにはタローがいた。
「タロー!」
小さい声で、アメは驚いたように言った。
「なんだ?どうした?タロー。」
「アメこそ、なんだ。ここ、アメの部屋か?」
「いや、違うけど・・・」
「俺、フワに・・・いや、会わなくて、いい。
これ、フワに・・・」
タローは作ったばかりのコットンケープを差し出した。
「タロー、お前が作ったのか?すごいぞ。」
片手でそれを受け取りながら、アメはにっこりと笑った。
「頼む、アメ。それ、フワに。それじゃ、俺、ウィンダスかえる。」
「もう戻ったんじゃないのか?タロー。」
「俺、まだウィンダス、用事ある。」
「そっか。LSで話して誰かに送ってもらえ。」
「いや、シン、待ってる。」
その言葉に、アメははっとシンの姿を探す。
少し離れたところに、その姿を認めた。
「・・・タローをよろしくなっ。」
シンは静かに頷いた。
何か話したかった気がした。
だけど、今はそんな時ではない。
ケープを受け取ったアメは、ちょっと頭を下げ
再びドアを閉めた。
タローはシンに駆け寄った。
「シン、いいのか?」
「な、何です?」
「アメ、いたぞ?」
「は、はい・・・。」
タローはじれったそうにぴょんぴょん跳ねた。
「シン、アメいるのに、遠くでうんうん言うだけ。
いくない!いくない!」
「いや、そんなこと言ってもフワさんの部屋ですし・・・」
「俺、別に部屋行って、がばっとかぶちゅっとかしろ、言ってない!」
「タロー、またそんなことを・・・」
シンは耳まで赤くなった。
「もう、ウィンダスに戻ります!」
シンはくるりと向きをかえ、すたすたと歩き出した。
「う・・・シン、怒るな、許せ許せ!
俺もウィンダス、連れてけー!」
慌ててタローは後を追った。