セルビナのどこにあのヴァイオリンを奏でる人がいるのだろう。
どうしていつもこんなに切ない音色を響かせているのだろう。
ふと砂丘の旅の疲れを癒そうと久しぶりに立ち寄った港街では
相変わらずのさざめきと潮風が彼女を出向かえた。
ふと、船に乗るのを見送ったまま、二度と戻らなかった相方のことを思いだす。
うわさでは、凶悪な大ダコが船に現れ、
あっという間に海に引きずり込まれたのだという。
しかし、乗り合わせた人もいなく、
船長は甲板で起きた出来事を見ていたわけでもなく
ただ、一瞬の船のぐらつきを感じ、船底のお店の人達も
がたがたっというような音を積荷が崩れたかのように聞いているだけだった。
相方はしかし、その日以来消え去ってしまったのである。
どこかで生きているかもしれないという願いも空しく
花が咲き始め、また同じ季節が巡ってきた。
男勝りな種族である彼女は、それでも気丈に生きてきたつもりだった。
一人で何でもできるようにとジョブは赤魔道士を選び、それなりの腕は持っていた。
ふとセルビナから同じように船に乗ってみた。
青い空に雲が幾筋かたなびいていて、それは静かな船旅だった。
もしうわさのタコが現れたら、一人ではやられてしまうかもしれない。
しかし、一太刀なりとも浴びせたら、連続魔デジョンで逃げることもできる。
後を追うなどという女々しい所業はそれでもまっぴら御免だと思っていた。
そう思っていても、そういう時ほど海賊すらも姿は見せず
何事もなく船はマウラに到着したのである。
仕方ない。
ウィンダスの自分の家に久しぶりに帰ってみるか。
友人達に久しぶりにtellでも入れて、レストランで酒でも飲もう。
ウィンに向かって走り出し、タロンギを横切ろうとした時
きのこを操っているタルタルの友人を見かけた。
「やぁ、何やってんの?w」
「獣使いを始めたんだ。そっちこそ何を?」
「今、家に帰る所でね。マウラから走ってきたんだ。」
「ふむ。テレポは使えなかったのかぃ?」
「そういやメア出来る様になってたんだw 船に乗ってみようと思ったから忘れてたよ。」
「船に?ああ、そんな時期だねぇ。」
「覚えてたんだ?」
「覚えているさ。」
そういや、相方がいなくなった後に毎日飲んだくれては
友人達にtellで長々と泣き言聞かせてたっけ。
「だよなぁ、あの時はすまんかったなwかなり愚痴ってただろぉw」
「かなりね(´ー`) 」
「きっついなぁ、お前w」
しかし、そんな憎まれ口とは裏腹に、泣きながら延々と話し続ける彼女の話を
彼はそうだな、辛いよなと黙って聞いててくれたのだった。
彼はきのこを操る手を止めると、唐突に彼女に聞いてきた。
「そうだ、ホラもできるかぃ?」
「できるけど?」」
「それじゃちょっと連れて行ってくれないか。今の季節ならもしかすると雨が降っているかもしれない。」
「雨?この時期の雨はまだ冷たいじゃないか。毛並みが濡れるのはいやだなぁ(ーー;)」
「いいから行けw」
「分かったよヽ(  ̄д ̄;)ノ」
ホラを唱え、光に包まれると、ラテーヌ高原に降り立った。
「ぉぅ、ばっちりだw」
ラテーヌは春の雨がさらさらと降っていた。
「ちぇっ、濡れるのきらいなんだよなぁ。」
「まぁ、そういうなw雲が切れてきている。待ってなw」
建物の陰で雨宿りしながらぼんやりと何てことない話をしていると
やがて、さらさらとした雨は止み始め、日差しがさして来た。
「あっちのほうを見てみな。」
「あ」
ラテーヌの空に大きな虹がかかっていた。
「すげー。きれいだな。」
「だろぉ?w」
「花が咲いても、足を止めることもなかった。風景なんてずっとモノクロのように見えていたよ。」
「うん。」
虹はそんなに長くは出ていなかった。
すぅっとすぐに空に吸い込まれるように消えた。
「ありがとな。」
「ぉぅw」
「獣使いの修行中だろ?またタロンギ戻るか?」
「いや、ここでもいいさ。」
「そかwがんばれよ。うちはジュノにでも戻るかな。」
そう言って、彼女はデジョンを唱え始め、ふと詠唱を中断した。
「なぁ、また邪魔しに来ても構わないか?」
「邪魔にならないようになw」
「なんだそりゃw」
小さく手を降った後に拳を突き出して彼を応援するモーションをした後
彼女はデジョンを唱え、その場から消え去った。