気を失っていたかのように見えたアサシンがぴくりと動いた気がした。
と、同時にその体が眩しい閃光のように光り、
轟音と共に砕けて散った。
忍者が自らの命を賭して相手にダメージを与える、微塵がくれの術である。
このまま無様に転がっているわけにはいかない、
アサシンの誇りに似た思いが、ふと気を取り戻した瞬間にこの技を繰り出させた。
バルガの舞台の上は粉塵のようなもので一瞬何も見えなくなった。
シンは思わず近くまで駆け寄る。
「アメさーん!」
視界を遮っていた粉塵が収まってくる。
先に見えたのはヤグードが立つシルエットだった。
審判であるカー・トルには試合によるダメージが及ばないように
特別な防御魔法でもかかっているのか、
それとも事前に人間には分からないような合図でもあるのか、
傷ひとつない体で舞台の端の方に立っていた。
すぐに、
うずくまっているようなアメのシルエットが見えてきた。
大僧正と呼ばれるヤグードは、それでいいというように僅かに微笑みながら頷いた。
それを見て、カー・トルはすぐさま声を上げた。
「この勝負、ひきわ・・・」
シンがその言葉を遮った。
「待て!またそのような不公正な審判を下す気か!」
いつものシンとは思えないほど語気を荒げていた。
一瞬カー・トルが気おされて言葉を中断するが、
冷静に返事をする。
「その意見は認められない。」
そして改めて勝敗を宣言しようとした。
その時だ。
「マッタクだ。てめぇの目は節穴かぃ?」
ぼそぼそと、しかし力強いアメの声だ。
カー・トルは驚いてアメを見た!
うずくまっていたアメは、ぎしぎしと音を立てるように
赤く染まった体を起こした。
「戦闘不能ってのは、ばったりと倒れた時に言うもんだぜ?」
アメは立ち上がると、カー・トルに向かって
ようやくにやりと笑った。
アメはぴくりと動いたアサシンの
その小さな変化を見逃してはいなかった。
爆発的なその攻撃を、咄嗟に身を低くし
ダメージを減らしていた。
カー・トルも立ち上がったアメと、
ぼろぼろになってぴくりともうごかなくなったアサシンを前にしては
勝敗を偽ることは出来なかった。
「・・・・・・・・・・・勝者・・・」
しかし、自らの職責も果たさなければいけない。
始めは渋々ながらも、
思い直しはっきりと審判を下した。
「勝者、ウィンダス代表!」
それを聞いてアメは安心したように微かに笑った。
シンは審判が下ったのと同時に舞台に駆け上がり、
自分の上衣を脱ぎ、アメに着せ掛けた。
そして、その体を支えようとする手を
アメは軽く押し返した。
「大丈夫、そんなによれよれじゃねぇ。」
「アメさん・・・。」
「ありがとな。実はあの姿じゃ恥ずかしかったわ。」
アメはシンににかっと微笑みかけると、一人で舞台を降りていった。