互角
この経過にヤグードたちは苛立ちを募らせた。
オズトロヤの戦士達でもこの様か、といった言葉を小さく吐き捨てる者もいた。
しかし、皆それ故に最終戦の圧倒的な勝利を信じて疑っていない。
小さな不満がやがて大きな喜びに変ることを
うずうずと待ち構えているようだった。
そのような異様な雰囲気の中
アメの試合中からタローはヤグード達の足元をうろうろと歩き回っていた。
試合に夢中になって、ヤグードたちは身に着けている数珠や
隠し持ったクリスタルを不用意に落とす者もいる。
タローはそれらを探し回り、見つけるたびに拾い集めこっそりと分解し草糸を作った。
草糸を集めるとダブレットが作れる。
それしかここでは出来ないが、
裸同然になったアメに着せてやりたかった。
リュックをごそごそと探り、雷のクリスタルを一個見つけた。
「よかった、これ、なかったらつくれない・・・」
あと数珠と風のクリスタルが一個ずつあれば草糸は足りる。
タローは一生懸命ヤグードたちの足元を探した。
時には無意識に時にはわざと蹴られたりする。
そのたびによろけたり、転んだりした。
でも、タローは泣かなかった。
「アメ、きっともっといたい、おれ、これぐらいいたくない。」
やっとで数珠を一つ見付け、大事そうに抱え込む。
だけど、あと一個の風のクリスタル。
それがどうしても見つからなかった。
試合が決着に近づくにつれ、ヤグードたちも益々殺気を帯びる。
タローは集団の後方にはじき出されてしまった。
闘技場は見えない。
が、爆発音と共に粉塵が舞い飛ぶのがタローからも見えた。
「アメ!・・・・」
思わず小さく声を出してしまった。
その時、タローの後ろから声がした。
「おかしいと思ってたんだよな。」
驚いて振り向くと、そこにはマーがいた。
「マー!」
「お前、人間の味方するのか?」
タローはうつむいた。
「俺、違う。どっちの味方でもない。」
「なんだよ、それ。」
「俺、アメに命助けられた。」
「アメ?」
「アメ、今戦っているミスラの名前。」
「タロー、お前人間に母さんを殺されたんだろう?あいつら、皆同じだ!
だまされるな、俺たちをいつか滅ぼそうと思ってるんだ!」
「アメ、だまさない!
アメ、命かけて俺、守った!」
「・・・・・・・・・」
「すまん、マー。俺・・・・」
マーは険しい表情のまま、タローに手を差し出した。
「謝るなよ。これ、探してるんだろ。やるよ。」
マーの手には風のクリスタルが握られていた。
「マー!これ、俺に?」
「やるってってんだろ!」
マーはそれをタローに押し付けると、くるっと背中を向けた。
「今日はもうおれに話しかけにくるんじゃないぞ。」
そう言って、足早にそこから立ち去った。
タローはぽろぽろと涙をこぼした。
「マー、すまん。今度、俺、今度ちゃんと、ちゃんと話す。」
タローはダブレットを完成させると、アメのいる陣営に急いだ!
アメに上衣を着せ掛けたまま、シンは舞台に上がっていった。
その眼は真っ直ぐ大僧正と呼ばれるヤグードを見据えていた。
大僧正、ヤグードハイプリーストも不敵な笑みを浮かべながら
舞台の下からその眼差しを捕らえていた。
ざわつく周囲の騒音から、何故か静かなハイプリーストの声だけが
シンの耳元に届いた。
「面白い。死にたいのか?」
「私は負けるつもりはありません!」
「そのような不十分な身形で、我に勝てると思うてか?」
「衣などなくとも十分です!」
「くっくっくっく・・・・・・・想う女が辱められたのがそんなに不満か?」
シンはかっとなった。
「そんなものではない!ここに来て、私と戦え!」
ハイプリーストはゆらりと舞台に上った。
歓喜の声が周囲から起こる。
その声を背中に受け、中央まで進んだハイプリーストは静かに微笑みながら、
しかし何かを考え込んでいるようでもあった。
「我は我々オズトロヤの戦士がこの戦闘で勝つことが必要だと思ってここにきた。」
シンは訝しげにその顔を見つめた。
「このような親善試合という生ぬるい力比べの場では、
それにも限界があることに気付いたのだ。」
「生ぬるい?」